Book
 
2015.03.26

加納一郎著『極地の探検・北極』

日本の極地探検研究の第一人者と言えば、やはり筆頭は加納一郎さんだろう。昭和35年に発行された『極地の探検・北極』は、その前年に出版された南極編と対になるものだ。

19世紀末以降の北極探検史について重点的にまとめられ、特に取り上げているのが20世紀からの航空機や原子力潜水艦での目覚ましい活動の数々だ。他の極地探検本では、近代の探検史はあまり多く語られないので読み物としても非常におもしろい。人力主体から技術革新の過渡期にあった動力でどのように北極という特殊な自然を探検していくのか、数々の試行錯誤が描かれている。まさに、人間による北極への挑戦記である。

この本をよく読みこんでいくと、加納さんによる日本人の探検に対する考え方への憂いのようなものが垣間見える。昭和31年に南極観測隊がはじまった際、学者や役所側の人びとと探検への造詣が深い人びとのあいだで、南極へは「観測」に行くのか「探検」なのかで議論が起きた。未知の大陸に行き、そこで学術研究を行うのは探検であると主張する加納さんは、結果的に観測隊という名前に落ち着いた事に対して、日本人的な、危険をもっぱら排除する全体主義のようなものに警鐘を鳴らしている雰囲気を感じるのだ。

あとがきの一説に、私はその想いをひしひしと感じる。その一説とはこうだ。

「今日の探検は学術とはなれては成り立たないものであるが、学問の分野は狭いものであり、その分野だけで、玄寒素雪の極地生活が満足にやりおおせるものではない。(中略)そうして全探検をたくみにリードして、有終の成果をもらたすような極地探検家が生まれ出ることを期待したい。」

55年前、先達からのメッセージだ。

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