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2013.10.08

岸上伸啓 著『カナダ・イヌイットの食文化と社会変化』

2006/2007年の第18回カナダ首相出版賞受賞作品。極北の大地を訪れ、イヌイットの村に滞在したとき、人はかつてのイヌイットと現代の姿を勝手に比較し、その変化を無自覚に批判あるいは納得する。

一見したことをすべての事象ととらえ、社会全体がなんとなくわかった気になるのである。長年の丹念なフィールドワークにより、イヌイット社会の変化や再生産を「食物分配」という実践を通して、丁寧に解き明かしているが本書である。1980年から2001年頃まで、カナダ・ケベック州極北部のヌナヴィク地域のアクリヴィク村の調査をした1級の文化人類学の成果である。

変化を見るには、通時的に同地域を調査しなければならない。この根気のいる作業をなしえたのは、著者の極北に対する情熱、イヌイットに対する愛情が根底にある。本書冒頭にある先行研究ないし極北研究史は北方研究を志すものにとって、大変役立つはずだ。「食物分配」がイヌイット社会にとってどのような意味を持つのか、極北の「変化」とは何か、本書から読み解いて欲しい。

 

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