Book
2013.10.08
植村直己 著『極北に駆ける』
多くの日本人にとって「北極=植村直己」という構図は過去も現代も変わらないだろう。山から平原まで数多くの冒険旅行を手がけた氏は、南極大陸単独横断の事前準備のため、1972年、極北の大地へ足を向けた。
本書で描かれている世界最北の集落であるグリーンランドのシオラパルク村でイニューイ(エスキモー)たちと過ごした日々・記録は本多勝一の『カナダ・エスキモー』同様、日本語で読める貴重な民族資料といえるだろう。
北極と南極の違いは、極論で言うならば、本書に描かれているようなエキスモーたちの姿である。そこには人がいて、文化がある。生き生きとした先住民たちがいるのである。その姿こそが彼の極北熱をさらに駆り立てたのではないかと想像する。
氏がいかに現地の人たちに愛されていたのか、というエピソードがある。小生がカナダ・ヌナブト準州のレゾリュート・ベイを訪問したときのこと。村の多くの人に「ウエムラを知っているか?」と尋ねられた。さらに、小学校の運動会に参加したとき、彼に敬意を表して「ウエムラ」というミドルネームを持った子どもたちがいたことを今でも鮮明に覚えている。
彼の魂は今も極北に眠っている。